「リセット」

リセット (新潮文庫)
「時と人の三部作」の第三作目です。
このシリーズでは、2番目に好き。1番は「スキップ」です。
「ターン」は3番。素敵な話だけど、恋愛が絡む分、甘ったるいから。(左下のカテゴリで「北村薫」を選んで頂くと、スキップとターンの感想にとべます。)


さて、リセットって、昨今良い響きではないですよね。ゲーム脳だか何だか知らないけど、人生はリセットできないんだよ!みたいなノリで。私も、この「リセット」を読むまで、人生にやり直しはきかないのに、どういう風にお話を進めるんだろうと不思議でした。


北村薫の「リセット」は、「骨接ぎ」という意味があるそうで、一人一人の人生は短いけれども、大いなる歴史の流れの中で願いや思いみたいなものは継がれていくってことだと思います。ご本人は「この題には、どうすることも出来ないものと向かい合った時の、かくあってほしいという祈りや願いの意味が込められています。」とのこと。(宮部みゆきとの対談より)

宮部みゆきも言ってるけど、この「リセット」は読者に優しい。北村薫の言う祈りや願いは「骨接ぎ」の過程の中でかなえられるから、すごくあったかい気持ちになれます。


とはいっても、舞台は戦時中がメイン、主人公のおかれる状況は過酷で厳しい。でも、その時代の中で、まっすぐに背筋が伸びているような一人称が読んでいて清々しい。


戦時下の恋(といえるほどのもんでもない。もっと純粋な淡い感情)。
読んでいて、ぐっときました。「好き」も何も伝えてない。でも好きな人と会話できる喜びが文章に滲み出てる。
修一が真澄に敬礼するところは切ないです。真澄と一緒に、読者も嫌な予感で心が一杯になります。


そして、最初の奇跡(リセットは、三部作の中で一番ファンタジー色が濃く、お話の中で2回、ありえないような奇跡が起きます)。
貸本屋とか、切手収集とか、時代を感じさせるエピソードが楽しい。
だんだん修一の記憶が戻っちゃうところ、秀逸。啄木かるた、ドイツ語、フライ返し---と畳み掛けるように来る。そこまでのほのぼのとしたエピソードから、記憶復活、列車の二重転覆まで読み始めたら止まらない。


列車事故シーン、何度読み返しても切ない・・・。咄嗟に手と肩で交わした会話、「あなたが消えるのを、わたし、二度も見られない。」
でも、ようやく会えたと思っている修一(村上君)にとっても、真澄が目の前で死ぬなんて残酷だよね。


そして、歴史は回り、2回目の奇跡。これは、読者側もこう来るだろうとある程度予想しているんだけど。予想の範囲内なんだけど、やっぱりいいんだなぁ。やはりドイツ語、雲雀、麦畑、歯磨き工場---人と人を結ぶ記憶って、こういうちょっとした日常なんだろうな。
麦畑をかきわけて突進してくるセーラー服。「会議は踊る」の続きを口ずさむ唇。絵的に凄く完成されているというか、目に浮かぶのです。


そして時は流れ、星はまためぐり続ける。


私も、獅子座流星群を大学生のときに見ました。その時は、父母と3人で見ました。次に見るときは、誰か別の人と見ているのかな。
「リセット」は、時が流れることを憂鬱にさせない、歳を重ねることをやさしく受け止めてくれる物語です。