秋の花

秋の花 (創元推理文庫)
「円紫さんと私」シリーズ、第3作で、初の長編。
「私」の高校の後輩に関わる事件です。帯に「私達って、そんなにもろいんでしょうか」と書かれています。人間のもろさと、だからこそ輝ける瞬間というものについて考えさせられます。

今まで、このシリーズは「日常の謎」を解き明かしてきたけれど、「秋の花」で初めて死体が出てきます。彼女は、他殺なのか自殺なのか、あるいは事故なのか・・・?どうしても人の生死が関わるから重い雰囲気は否めませんが、「どうしてだろう?」という謎が読者の中で持続できるので、最後まで一気に読めると思います。

「あの時こうしていれば良かった」って思うこと、誰でもあると思うけど、この事件のようにそれを痛烈に感じるのは辛いです。日常の至るところに、そんな後悔は落ちていて、暗い運命に落とされる可能性もそこらじゅうに転がっている。そのことに気付けた時、人は《今》を精一杯悔いなく生きねば、と思うのでしょう。この結論は、「時と人の三部作」にも受け継がれているテーマです。こっちもオススメ!!

ところで、少し話の筋とは離れるけど、作中にいつもの三人組が「野菊の墓」について語るシーンがあります。何でも読んでいそうな「私」が意外にも読んでいなかった、伊藤左千夫の名作。かろうじて、この話は読んだことがあったんだけど、私は正ちゃんと全く同意見。政夫ってなんてダメな男なんだろうって思ってました。彼女のこと、好きだったくせに周囲の反対を気にして諦めてみたり、諦める振りして彼女には思わせぶりなこと言ってみたり!彼女が死んでから親戚に当ってみたり・・・実際、どうしようもない男だよ。でも、江美ちゃんの意見を読むと「いろいろな見方があるもんだなぁー」っていう発見があって、とても面白かったです。

秋の高い空の下のハイキングが楽しそうで、全体的に落ち着いた話の中で、とても爽やかな、良いシーンでした。