覘き小平次

覘き小平次 (C・NOVELS BIBLIOTHEQUE)

京極夏彦著の「覘き小平次」を読みました。山本周五郎賞受賞作だそうです。

多分、系列としては「嗤う伊右衛門」と同じ怪談シリーズ(っていうのかな?)だと思うんだけど。「伊右衛門」は、かろうじて目の上が腫れてるお岩さんっていう幽霊の話でしょうー?っていう程度に知ってたけど(この認識もどうかとは思うけどね。)「小平次」の怪談は全然知らなくて、純粋に京極の作った世界に入り込んで読みました。


一言で言うと、お塚と小平次が羨ましい。お互いがお互いを必要としてるなんて口が裂けても言えない間柄なのに、一緒にいるのが自然で。顔を会わせれば腹が立つのに、同居することを選んでる−−−その関係が羨ましい。


小平次が、周りの人間を腹立たしく思わせたり、恐ろしく思わせたりするのは、空っぽだから。空っぽだから、小平次に向きあった人間の中身がもろ見えちゃって、人によってはどうしようもなく苛々したり、後ろめたいことした奴は恐ろしくなったりするんだよね。
でも、小平次は本当に中身の無い人間なんじゃなくて、わざと中身の無い(というよりも希薄な)人間になろうとしてる。そこがいい、と思った。本当はいろいろな思いをもって然るべき人間が自分を薄めよう薄めようとしてて、それが成功しちゃうのは凄いよな。


お塚は、現実を見据えたきっぷの良さが好ましい。掛け軸に恋してた少女の頃に戻りたい、なんてさらさら思ってないところがいい。


そんな二人の関係が、最後に成就してて、ハッピーエンドだなぁと思った。「伊右衛門」もラストは、ある意味幸せなんだろうけど、どうも哀しみが漂う(そこがいいんだけど)けど、「小平次」は、普通にハッピーエンドに仕上がってると思った。
でも、この二人の関係がきちんと成り立ってる、と知っているのは当人同士と読者だけ。もっとも、当人同士もお互いの気持ちなんか汲めてないんだけどね−−−それでいいのかもしれない。


あ、ちなみに「伊右衛門」の方と同じで、巷説百物語シリーズとリンクしてまして、又市一味も出てきます。どう出てくるかは、読んでのお楽しみ♪ということで。こういう読者サービスは大事だと思うんですよ!ファンを大事にしてくれるよね、京極先生って。